体が変わるのは、記録を始めたその日から
筋トレを始めた当初、ただトレーニングをすれば体は自然と変わっていくものだと思っていました。
しかし、実際に自分の身体つきが大きく変わり始めたのは──
目標の摂取カロリーを明確に設定し、日々記録を取り始めたときでした。
筋トレは、体に「変化せよ」と指令を出す行為です。
けれど、その指令に応えるための材料を届けるのは、日々の食事です。
そして、ただ食べるのではなく、「何を」「どれだけ」「いつ」食べるかを意識的にコントロールすることで、体は理想の方向へと動き始めます。
そのための技術こそが、カロリー管理です。
この記事では、カロリーの基本知識から、自分に合った摂取カロリーの設定方法、日々の記録のコツまで、体づくりに本気で取り組む方のための“完全版”カロリー管理法を丁寧に解説していきます。
数字が苦手な方でも大丈夫です。
シンプルな考え方と、実践しやすい方法で、誰でも今日から始められる内容になっています。
「ちゃんと食べて、しっかり変える」──そんな新しい一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
第1章|カロリーとは何か(基礎編)
「カロリー」とは、食品に含まれるエネルギー(熱量)を表す単位です。
私たちの体は、このエネルギーを使って生命活動を維持し、筋肉を動かし、体温を保ちます。
カロリーという言葉はよく聞きますが、体づくりのためには「どのように働くのか」を正しく理解することがとても重要です。
摂取カロリーと消費カロリー
まず知っておきたいのは、摂取カロリーと消費カロリーのバランスです。
- 摂取カロリー:食べ物や飲み物から体に取り込むエネルギー
- 消費カロリー:体が日常生活や運動などで消費するエネルギー
この2つのバランスが、体重や体組成(筋肉・脂肪)の変化に直結します。
状態 | 結果 |
---|---|
摂取 > 消費 | エネルギーが余り、体重が増える(脂肪または筋肉) |
摂取 < 消費 | エネルギーが足りず、体重が減る(脂肪または筋肉) |
摂取 = 消費 | 体重は基本的に維持される |
このように、カロリー収支は体の変化を生み出す「土台」です。
筋トレや有酸素運動なども大切ですが、それだけでは変化が起きにくい理由は、このカロリーバランスが整っていないことにあります。
カロリーは質も重要
また、同じカロリー量でも、「何から摂るか」によって体への影響は大きく変わります。
たとえば、500kcalをチョコレートから摂るのか、鶏むね肉と玄米から摂るのかでは、栄養素の質も、体の反応もまったく異なります。
この質を意識する考え方が、PFCバランスです。
- P(Protein)=タンパク質
- F(Fat)=脂質
- C(Carbohydrate)=炭水化物
これらの栄養素が何キロカロリーを持っているかも、覚えておくと便利です。
栄養素 | 1gあたりのカロリー |
---|---|
タンパク質 | 約4kcal |
脂質 | 約9kcal |
炭水化物 | 約4kcal |
体づくりでは、まずはカロリーの総量を把握することが第一歩ですが、次のステップとしてこのPFCバランスも意識できると、さらに精度の高い食事管理が可能になります。
カロリー=体の設計図を描くための基本単位
トレーニングは「刺激」です。
でも、それにどう応えるかは、何をどれだけ食べるかで決まります。
カロリーを理解することは、言いかえれば「自分の体の設計図を描けるようになること」。
感覚ではなく、知識と数字で体を動かしていく。
そのスタートラインが、このカロリーという考え方にあります。
第2章|1日の消費カロリー(TDEE)の求め方
体づくりに取り組むうえで、「自分は1日にどれくらいのカロリーを使っているのか?」を知ることは、とても重要です。
これを示すのが TDEE(Total Daily Energy Expenditure:総消費カロリー) です。
TDEEを知れば、増量・減量・維持、どの目標に対しても「どのくらい食べればいいのか」が明確になります。
ステップ1:基礎代謝量(BMR)を計算する
まずは、1日寝ていても消費されるカロリー=基礎代謝量を把握します。
代表的な計算式のひとつに、以下のようなものがあります(mifflin-st jeor式):
【男性の計算式】
10 × 体重(kg)+ 6.25 × 身長(cm)− 5 × 年齢 + 5
たとえば、25歳・身長175cm・体重70kgの場合:
→ 10 × 70 + 6.25 × 175 − 5 × 25 + 5
→ 700 + 1093.75 − 125 + 5 = 約1,674kcal
この数字は、体をまったく動かさなくても消費する「最低限のエネルギー消費」です。
ステップ2:活動係数をかけて、TDEEを算出する
私たちは日常生活で歩いたり、筋トレをしたりと、常に活動しています。
その活動量に応じて、基礎代謝に「活動係数」をかけることで、1日の総消費カロリー(TDEE)を求めます。
活動レベルの目安 | 係数 | 該当する人の例 |
---|---|---|
座りがち(運動習慣なし) | 1.2 | デスクワーク中心でほぼ運動しない人 |
軽い運動(週1〜3回) | 1.375 | 軽い筋トレ・ウォーキングなどを週2〜3回行っている人 |
中程度の運動(週3〜5回) | 1.55 | 筋トレ・スポーツなどを定期的に行っている人(多くのトレーニーはここ) |
ハードな運動(週6〜7回) | 1.725 | 毎日のようにハードなトレーニングをする人 |
非常に高い活動量 | 1.9 | アスリート、重労働系の仕事+運動をしている人 |
例として、先ほどの基礎代謝(1,674kcal)の人が週5〜6日トレーニングしている場合:
→ 1,674 × 1.725 = 約2,887kcal
これが、体重を維持するために必要なカロリー(TDEE)です。
注意点|正確さより目安で十分
この計算は、あくまで「目安」です。
体温、筋肉量、消化能力、日々の歩数などによって、実際の消費カロリーには個人差があります。
そのため、「TDEE通りに食べていても体重が増える・減る」ということも起こります。
大切なのは、この数値を基準にして、定期的に体の変化を見ながら調整していくことです。
次の章では、このTDEEをもとに「どのくらい食べればいいか」を、目標別に具体的に解説していきます。
第3章|目標別:摂取カロリーの決め方

Photo by Joachim Schnürle on Unsplash
TDEE(1日の消費カロリー)がわかったら、次は「どれくらい食べるか」を目的に合わせて調整していきます。
ここで重要なのは、自分が今どんな状態を目指しているかをはっきりさせることです。
大きく分けると、目標は以下の3つに分類されます:
1. 減量(体脂肪を落とす)
体脂肪を落としたい場合は、摂取カロリーをTDEEよりも減らす必要があります。
目安としては、TDEEから300〜500kcal程度マイナスが現実的です。
- 体脂肪1kg = 約7,200kcal
- 1日500kcalの赤字なら、1週間で約0.5kg減が目安
ただし、極端なカロリー制限は筋肉を減らしたり、代謝を落としたりする原因になります。
「減らしすぎないこと」が、長く続けるためのコツです。
2. 増量(筋肉を増やす)
筋肉を増やしたいときは、TDEEより多く食べる必要があります。
ただし、闇雲に増やすのではなく、TDEE+200〜400kcalの範囲で調整すると、脂肪の増加を最小限に抑えながら筋肉を増やすことができます。
増量中も、タンパク質をしっかり摂ることが大前提。
「体重が増えている=筋肉が増えている」ではないため、鏡や写真、トレーニングの記録で変化を確認していきましょう。
3. 体重をキープしたい場合
体型を維持したい場合は、基本的にTDEEと同じくらいの摂取カロリーを目指します。
ただし、季節やトレーニングの強度によって消費カロリーは変動するため、月に1〜2回、体重や体調をチェックして微調整していくことが理想です。
「正解の数字」は存在しない
摂取カロリーの設定は、スタート地点にすぎません。
実際に食べてみて、体重・体脂肪率・見た目・トレーニングのパフォーマンスを観察しながら、調整していく必要があります。
たとえば:
- 2週間で体重が落ちすぎた → 少しだけカロリーを増やす
- 体重がまったく動かない → もう少し減らす or 有酸素を追加
このように、自分の体から返ってくる“反応”を見ながら数字を合わせていくことが、体づくりの最も現実的なやり方です。
第4章|実践テクニック:カロリーを見える化する方法
摂取カロリーを目標に合わせて設定したら、次はそのカロリーをどう管理していくかがポイントになります。
数字を頭の中だけで把握するのは、ほぼ不可能です。
正確さよりも大切なのは、「見える化」して、習慣化すること。
ここでは、日々のカロリー管理をスムーズに行うための具体的な方法を紹介します。
1. アプリを使う(初心者こそ活用すべき)
カロリー管理において、アプリは非常に心強い味方です。
代表的なツールとしては以下のようなものがあります。
・MyFitnessPal(マイフィットネスパル)
- 海外製ですが、食品データの種類が非常に多く、筋トレ系ユーザーにも人気です
- バーコード読み取りやカスタムレシピ登録が便利
・あすけん
- 日本語対応で、コンビニ食なども登録されていて扱いやすい
- 栄養バランスのアドバイスが自動表示されるのも魅力
アプリに一度入力してみると、自分がどれだけ食べていたかの現実に驚くことも多いです。
まずは数日でもいいので、「記録する」ことから始めてみましょう。
2. 食品表示を読む習慣をつける
日常的にパッケージの裏面を見るクセをつけましょう。
確認すべきポイントは以下の通りです。
- カロリー量(kcal)
- 1食あたりなのか、100gあたりなのか
- タンパク質・脂質・炭水化物のバランス(PFCバランス)
注意したいのは、全体量の表示と分量がズレているケースです。
たとえば1袋500kcalでも、「1食あたり250kcal」と小さく書いてある場合、うっかり2倍食べていることもあります。
3. 外食や自炊もざっくり推定でOK
カロリー管理は「完璧主義」でやると長続きしません。
外食や手作り料理など、正確なカロリーがわからないときは、似たメニューをアプリで検索して近い数値を入力するくらいでも十分です。
たとえば:
- 牛丼(並) → 一般的に約600〜700kcal
- チキンステーキ+ごはん → 約700〜800kcalと見積もる
このようなざっくり推定を続けていくことで、自然と食べ物のカロリー感覚が身につきます。
4. 続けることが何より大切
カロリー管理は、習慣化こそが最大の武器です。
「記録すること自体が面倒でやめた」ではもったいない。
- 最初は夜だけでもいい
- 食べたものを写真で記録するのもOK
- 正確に記録しなきゃというプレッシャーを手放す
カロリー管理は、自分と体の対話ツールです。
完璧よりも「続けること」を優先しましょう。
第5章|ありがちな失敗と落とし穴
カロリー管理はシンプルな仕組みですが、実際に取り組んでみると意外なところでつまずくことがあります。
ここでは、特に多いつまずきポイントとその対処法を紹介します。
1. 「低カロリーにしているのに体が変わらない」
これは、多くの人がぶつかる疑問です。
原因として考えられるのは以下のような点です。
- 実際は摂りすぎている(計算ミス、間食、調味料などの見落とし)
- 代謝が落ちている(極端な食事制限で体が省エネモードになっている)
- 活動量が減っている(以前より動いていない)
→ 対処法:まずは記録の精度を見直し、無理な制限は避けましょう。
特に「記録をやめた日」に限ってカロリーオーバーしている場合も多いので、習慣をやめないことが第一です。
2. 「タンパク質が足りていない」
体重を落としたいからといって、ただカロリーを減らすだけでは筋肉が落ちてしまいます。
減量でも増量でも、筋肉を維持・成長させるためにはタンパク質を意識的に摂ることが不可欠です。
目安としては、
- 減量中でも体重1kgあたり1.6〜2.2g
- 増量中や筋肥大目的なら2.0g以上
→ 対処法:1食ごとに20〜30gのタンパク質を確保すると、1日合計で届きやすくなります。
3. 「数字に縛られすぎてストレスになる」
カロリー管理を頑張りすぎて、
- 食事が楽しくない
- イレギュラーな予定に対応できない
- 1gの誤差に不安になる
といった状態になってしまうと、本末転倒です。
→ 対処法:目安でOKと割り切ること。
食事は人生の一部であり、100%正確にする必要はありません。
「だいたい合っていればいい」というスタンスで、長く続けることを最優先にしましょう。
4. 「外食や旅行でリズムが崩れる」
出先では、記録も難しいし、内容も選べないことが増えます。
ここで「もういいや」とゼロに戻ってしまう人も少なくありません。
→ 対処法:
- 前後でバランスを取る(外食が多い週は前後を軽めに)
- 食べる順番(野菜→タンパク質→炭水化物)だけでも守る
- 翌日にむくみや体重が増えても「一時的なもの」と知っておく
完璧でなくても、続けている意識があるだけで十分です。
数字は、あなたの味方になる

Photo by Waqar Mujahid on Unsplash
筋トレは努力の象徴です。
だけど、その努力が「報われるかどうか」は、栄養がきちんと届いているかどうかにかかっています。
せっかく汗を流しても、材料が足りなければ体は変わりません。
逆に、トレーニングと食事の両方を整えれば、変化は一気に加速します。
そのためのツールが、カロリー管理です。
これはただの数字の記録ではなく、あなたの身体の未来をデザインするための地図です。
数字はときに面倒に感じるかもしれません。
でも、体づくりにおいては、
「なんとなく」より、「見えること」が圧倒的に強い。
- どれだけ食べているか
- 何が足りていないか
- どこで変化が止まっているか
これらを把握し、修正し、また前に進む。
カロリー管理とは、自分の体と会話を重ねていく行為でもあります。
自分の体に責任を持つということは、自分の人生に責任を持つということ。
数字に支配されるのではなく、数字を使いこなす。
そうすれば、体も心もきっと変わっていきます。
今日から、変化のスイッチを入れてみましょう。
「記録を始めたその日」こそ、あなたの体が動き出す日です。